フレア現象とは?鍼を受けた後に肌が赤くなる仕組みを鍼灸師が解説

鍼を受けたあと、刺したところの周りがじんわりと赤くなることがあります。「これは何が起きているの?」「効いている証拠なの?」と気になった方に向けて、このページでは「フレア現象(フレア反応)」について、学会誌の論文や鍼灸教育の教科書をもとに、現時点で分かっていること・まだ分かっていないことを正直にご紹介します。実はこの現象、当院「はりきゅうサロンflare」の名前の由来にもなっています。

目次

フレア現象とは|鍼のあと、赤みが「広がる」反応

皮膚を刺激したときに起こる古典的な反応として、「Lewisの三重反応」というものが知られています。刺激直後に生じる局所的な発赤(red reaction)、そこから周囲へ広がっていく発赤(flare)、血管の透過性が高まって生じる膨らみ(wheal)の3段階に分けて説明されるものです[1]。鍼やお灸の刺激でも、このflare(フレア)にあたる反応、つまり刺激した一点だけでなく、その周囲へじんわりと赤みが広がっていく反応が見られることがあります[2][3]。

普通の反射と何が違うのか|反射弓を通らない反応

私たちの身体の反射の多くは、「反射弓(はんしゃきゅう)」と呼ばれる決まった経路をたどります。受容器が刺激を受け取り、感覚神経を通って脳や脊髄(中枢)に伝わり、そこから運動神経を通って筋肉などの効果器が動く、という流れです。熱いものに触れて思わず手を引っ込める反応が、その代表例です。

フレア現象が興味深いのは、この反射弓を通らないという点です。脳や脊髄まで信号が戻ることなく、刺激を受けた現場(末梢)だけで反応が完結すると考えられています[3]。それでも、身体はきちんと反応するのです。

フレア現象の正体(1)軸索反射

この反応の中心にあると考えられているのが、「軸索反射(じくさくはんしゃ)」と呼ばれる仕組みです。軸索反射とは、感覚神経の軸索(枝分かれした部分)のレベルで起こる、反射に似た現象のことです[2][3]。

鍼灸教育で使われている教科書『はりきゅう理論』では、次のような順序で説明されています[3]。

①鍼などの刺激が、皮膚の感覚神経の末端(侵害受容器)を興奮させる
②その興奮は、脊髄後角へ向かうと同時に、軸索の枝分かれ(側副枝)を通って別の神経末端へも伝わる
③そこから、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やサブスタンスP、VIP(血管作動性腸管ペプチド)といった神経ペプチドが放出される

放出されたCGRPやサブスタンスPには血管を広げる作用があり、これによって皮膚の血管が拡張し、赤みとして目に見える形で現れると考えられています。CGRPは感覚神経から放出される神経ペプチドの中でも特に強力な血管拡張作用を持つことが、大規模なレビューでも整理されています[4]。サブスタンスPには血管の透過性を高める作用もあり、これが軽い浮腫(むくみのような膨らみ)につながることもあります[3]。このように、脳や脊髄を介さず末梢の神経だけで起こる炎症反応のような変化は、「神経原性炎症」とも呼ばれています[3][4]。

なお、すべての感覚神経が同じようにこの反応に関わっているわけではないこともわかっています。ヒトの皮膚を対象にした研究では、C線維の中でも「機械刺激には反応しにくいタイプ」の神経が、軸索反射性のフレアに特に重要な役割を果たしていることが報告されています[5]。「神経が刺激されればどれでも同じようにフレアになる」という単純な話ではないようです。

本当に鍼で起こることなのか|国内の実験研究から

ここまでは一般的な生理学の話ですが、「鍼灸の刺激で実際にこの反応が起こるのか」を直接調べた日本の研究があります[2]。健康な成人13名を対象に、前腕の皮膚をカプサイシン(唐辛子の主成分)で処理し、特定の感覚神経(カプサイシン感受性のC線維)を働きにくくしたうえで、鍼やお灸によるフレア反応がどう変化するかを調べたものです。

その結果、この処理を行った部位では、お灸によるフレアは弱まり、鍼刺激によるフレアはほぼ見られなくなったことが報告されています[2]。研究者らは、これは鍼を刺すという物理的な刺激そのものだけでなく、刺すことによるごく微細な組織の変化が、この特定の感覚神経を刺激している可能性を考察しています[2]。「針が神経を直接押したから赤くなる」という単純な話ではなく、もう少し複雑な仕組みが関わっている可能性がある、ということです。

フレア現象の正体(2)一酸化窒素(NO)の関与

ここまでの説明だけを読むと、「フレア現象=軸索反射」とすっきり言い切りたくなりますが、実際にはそう単純ではありません。

ヒトを対象とした別の研究では、一酸化窒素(NO)の産生を抑える薬を使うと、鍼刺激後の皮膚血管の広がりが弱まる一方、局所麻酔で感覚神経の働きを止めても、反応にはっきりした違いが出なかったことが報告されています[6]。また、実際に鍼を行った側でNO濃度と皮膚組織の血流の両方が増加し、両者に関連が見られたとする研究もあります[7]。血管内皮細胞はもともと常にNOを作り出しており、CGRPなどの物質によってさらにNOの産生が増えることも知られています[3]。

鍼灸教育の教科書でも、軸索反射の説明のすぐあとに一酸化窒素(NO)の項目が置かれており、皮膚の血流変化を単一の仕組みだけで説明していません[3]。つまり現時点では、

鍼刺激によるフレア反応には、無髄C線維などの感覚神経が関与し、神経末端から放出されるCGRPやサブスタンスPといった神経ペプチドが局所の血管を拡張させる機序が考えられています。一方で、ヒトを対象とした研究では一酸化窒素(NO)の関与も報告されており、発赤や血流増加を単一の「軸索反射」だけで説明できるとは限りません。感覚神経、神経ペプチド、NOなど複数の機序が関わっていると考えるのが、現時点では妥当です。

というのが、誠実な説明になります[2][3][6][7]。

「鍼をすると血流が良くなる」はどこまで言えるのか

2016年に発表されたシステマティックレビューでは、鍼刺激後の局所の血流変化を調べたランダム化比較試験8件・計205例が検討されました[8]。健常者を対象にした研究のうち、対照と比べて血流の有意な増加が見られたものがある一方、有意差が出なかった研究や、刺鍼直後に一時的な血流低下が見られた研究もありました。刺す深さや手技、使用したツボ、測定方法などが研究ごとに大きく異なっていたこともあり、著者らは「局所血流に関する確実な結論を出すには、現時点では十分なエビデンスとはいえない」と結論づけています[8]。

比較的新しい国内の研究でも、円皮鍼を使った試験で、本物の鍼を使った側でだけ有意な血流増加が確認されたという報告があります[9]。ただしこれは特殊な鍼を使った試験であり、通常の毫鍼(一般的な鍼治療で使う鍼)にそのまま当てはめられるものではありません。

鍼灸教育の教科書でも扱われている現象です

フレア現象は、決して民間療法的な言い伝えではなく、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師を養成する学校で使われている公式教科書『はりきゅう理論』(公益社団法人東洋療法学校協会編)にも、「鍼灸治効機序」の一項目として、図解付きで説明されています[3]。当院でも、この教科書をはじめとした鍼灸教育の一次資料や、全日本鍼灸学会誌などの学術論文をもとに、内容の正確性を確認したうえでこの記事を作成しています。

フレア現象は「効いている証拠」なのか?

「赤みが強く出た=よく効いている」と考えたくなる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、正直にお伝えすると、フレア現象の出方の強さや広がり方と、施術の効果を直接結びつけられるだけの根拠は、今のところ十分ではありません。生理学的な反応が起きたことと、臨床的な効果が得られたことは、別の問題として考える必要があります。

そのため当院では、「赤くなったから効いている」「赤みが強いほど良い」といった説明はいたしません。フレア現象は、鍼灸刺激に対して身体がきちんと反応していることを示すサインのひとつではありますが、それ自体を効果の保証として扱うことは避けています。同じように、赤みが出なかったからといって、施術に問題があるわけでもありません。

よくある質問

Q. フレア現象の赤みは、どのくらいで消えますか?
A. 個人差があり、一概には言えません。気になる場合は施術者にお尋ねください。

Q. 内出血とは違うものですか?
A. はい、別のものです。フレア現象は血管が拡張して起こる赤みで、内出血のように血液が皮下に漏れ出るものとは仕組みが異なります。見分け方に迷う場合は、遠慮なくご相談ください。

Q. 誰にでも起こるものですか?
A. 起こりやすさには個人差があります。フレア現象が出ないからといって、施術に問題があるわけではありません。

「flare」という名前は、この現象から生まれました

当院「はりきゅうサロンflare」という名前は、実はこのフレア現象から着想を得て名付けています。一点から周囲へじんわりと広がっていくその様子が、「はりきゅうの良さが、いろんな人にじんわりと広まってほしい」というオーナーの想いと重なったためです。名前に込めた想いについては、「はりきゅうサロンflareという名前の由来」の記事でも詳しくご紹介しています。

まとめ|心配しすぎなくて大丈夫な反応です

フレア現象は、鍼やお灸の刺激をきっかけに、刺激部位の周囲へ赤みが広がる生理的な反応です。反射弓を通らない「軸索反射」が中心的な仕組みと考えられていますが、一酸化窒素(NO)など複数の機序が関わっていると考えるのが現時点では妥当です。鍼灸教育の公式教科書や学会誌の論文にも取り上げられている、根拠のある現象ですが、赤みの強さと施術の効果を直接結びつける十分な根拠は、今のところありません。分からないことがあれば、施術中でも施術後でも、遠慮なくお尋ねください。

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参考文献

[1] Nobles T, Muse ME, Schmieder GJ. Dermatographism. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2026.
[2] 神田浩里, 岡田薫, 川喜田健司. 鍼灸刺激で誘発されるフレア反応に関与する受容体の検討. 全日本鍼灸学会雑誌. 2010;60(5):802-810.
[3] 公益社団法人東洋療法学校協会編. はりきゅう理論 第3版. 医道の日本社; p.104-108.
[4] Russell FA, King R, Smillie SJ, Kodji X, Brain SD. Calcitonin gene-related peptide: physiology and pathophysiology. Physiol Rev. 2014;94(4):1099-1142.
[5] Schmelz M, Michael K, Weidner C, Schmidt R, Torebjörk HE, Handwerker HO. Which nerve fibers mediate the axon reflex flare in human skin? Neuroreport. 2000;11(3):645-648.
[6] Kimura K, Takeuchi H, Yuri K, Wakayama I. Effects of nitric oxide synthase inhibition on cutaneous vasodilation in response to acupuncture stimulation in humans. Acupuncture in Medicine. 2013;31(1):74-80.
[7] Tsuchiya M, Sato EF, Inoue M, Asada A. Acupuncture enhances generation of nitric oxide and increases local circulation. Anesth Analg. 2007;104(2):301-307.
[8] Kim SY, Min S, Lee H, et al. Changes of Local Blood Flow in Response to Acupuncture Stimulation: A Systematic Review. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. 2016;2016:9874207.
[9] 大澤真, 脇英彰, 篠原大侑, ほか. 多芯円皮鍼による局所血流反応―ランダム化クロスオーバー試験―. 全日本鍼灸学会雑誌. 2025;75(3):379-388.

監修:花田光由(はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師/BFA JAPAN認定施術者/JEAS〈全日本耳つぼ療法普及協会〉運営本部/鍼灸師国家試験対策サイト運営)

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この記事を書いた人

花田 光由(はなだ みつよし)
はりきゅうサロン Flare オーナー
あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師

2020年3月 桐朋高等学校 卒業
2020年4月 湘南医療福祉専門学校 入学
在学中より国家試験対策サイト「東洋の委員長」を立ち上げ、鍼灸学生向けの学習支援・情報発信を開始。
2023年3月 湘南医療福祉専門学校 卒業
2023年4月 同校に入職し、国家試験対策指導を担当。
2023年7月 合同会社 東洋の委員長 設立
2024年4月 教育学系大学院へ進学。経絡経穴の学習困難をテーマに研究に取り組む。
2026年2月 はりきゅうサロン Flare(フレア)開業
2026年7月 一般社団法人大田区鍼灸あんまマッサージ指圧師会 外部顧問 就任

現在は臨床に加え、鍼灸・医療分野を中心とした情報発信や配信活動、Webマーケティングにも携わる。
JEAS、BFA JAPAN、ダーマローラージャパンなどのWebマーケティングを担当。

専門分野は、はりきゅうのICT教育・Webマーケティング。
これまでの研究テーマは、経絡経穴の学習困難。
教育・臨床・情報発信を横断し、鍼灸をより身近に届ける活動に取り組んでいる。

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